【連載】働きやすい職場づくり-ハラスメント解説

<カスハラ自殺で、労災認定>

【概要】

ある住宅メーカーの男性社員(当時24歳)が自殺した。柏労働基準監督署は、「カスハラなどで精神障害に罹患した」として労災認定した。具体的には、次の内容が特徴的である。

1.この男性は、注文住宅販売の営業だった。住宅を新築中の顧客に、追加費用が必要になった旨を説明したことをきっかけに、叱責を受けるようになった。休日に電話に出なかったことで、怒鳴られることもあった。
2.また、携帯には「そんなんじゃ、銭なんか払えねえぞ」「すいませんで済むか、おめえ」などとまくし立てる音声が残されていた。現場監督責任者とともに顧客宅を訪れて謝罪したところ、20分ほど一方的に話を聞かされ、「バカ」などと責められた。
3.労災認定では、クレームの相談・報告体制のルールが会社側に存在していなかったことや、会社側の不適切な対応も問題視された。

【ワンポイント解説】

 住宅メーカーの社員が顧客に追加費用を要求して以降、顧客とのトラブルが生じたケースである。

注文住宅の販売は高額であり、失注するわけにはいかないという営業職のプレッシャーは確かに大きい面がある。

一方で、悪質な顧客と関わると、このようにカスハラの被害を受けることもありえる。

会社としては、カスハラを受けた社員を孤立させてはならない。このような場合は、複数人で訪問し、組織的対応を行うことが原則である。

 なお、今回は悪質なカスハラ客であったが、正当なクレームには、企業は誠実に対応することが原則である。対応を誤らないように注意する必要がある。

<パワハラ否定で戒告処分>

【概要】

福島県の職員2名が、パワハラ関連で懲戒処分を受けた。具体的には、次の内容が特徴的である。

1.1人目の職員は、部下のパワハラ行為を認識しながらも不適切な対応を行った。パワハラ加害者と被害者を同席させ、意見交換を強要した。さらに「パワハラは認められない」との報告を行った。組織として適切な対応を妨げたと判断され、戒告処分となった。
2.2人目の職員は、部下や出先機関の職員9人に対し、強い口調で叱責するなどのパワハラを行った。叱責は周囲に聞こえるほど強い口調で行われ、職場の雰囲気を悪化させたことが問題視された。この職員には減給1か月の処分が科された。

【ワンポイント解説】

1人目の職員のケースでは、部下のパワハラ行為を認識していながら適切な対応をせず、むしろ「パワハラではない」との報告を行っていた。

「当事者を同席させ、話し合えば解決する」という誤った対応は、被害者にさらなる精神的負担を強いることになる。一つ間違えれば、加害者からの二次被害につながるリスクがある。

2人目の職員のケースでは、周囲に聞こえる形であたかも公開処刑のような対応を行っており、適切な指導とはいえない。

指導する場合は、大勢の人が見ている前ではなく、個室に呼んで個別に行うことが原則である。

いずれも職場の秩序や安全を著しく損なう行為であり、懲戒処分は妥当といえる。

県としては、こうした問題を繰り返すことがないよう、再発防止に努める必要がある。

(社会保険労務士・中小企業診断士 坂本直紀)

※毎月第1火曜日掲載

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