<「考え方が非常識・親の顔が見たい」>
【概要】
ある出版社から書籍編集業務を委託されていた元フリー編集者の女性が、出版社に対して、損害賠償を求めて提訴した。具体的には、次の内容が特徴的である。
- 東京地裁は、フリー編集者に対する出版社社員の言動が、「業務の適正な範囲を超えていた」として、約60万円の支払いを命じた。
- この社員は業務遅延を理由に、「考え方が非常識」、「親の顔が見たい」といったメールを送付した。また、深夜に不要な電話で年齢・出身地を尋ねていた。
3.裁判所は、女性の名誉感情が傷つけられたと判断した。
【ワンポイント解説】
業務委託契約という立場にあるフリー編集者に対して行われたハラスメント行為である。
まさに、「立場の強い側から弱い側への不適切な言動」である。
発注側(いわゆる顧客、今回は出版者の社員)が優越的地位を背景に、受注者(今回はフリーランスの編集者)に社会通念上不適切な言動を行い、就業環境を害したものである。
企業は契約パートナーやフリーランスに対しても、社員と同様に相手を尊重し、適切なコミュニケーションをすることが求められている。
カスハラについては、法改正もなされたこともあり、より一層注意を払う必要がある。
<手を握らせるセクハラで、懲戒処分>
【概要】
和歌山県立医科大学は、部下に対するセクハラ行為があったとして、付属病院に勤務する50代の男性医療技師を戒告処分とした。具体的には、次の内容が特徴的である。
- 問題となったのは、この技師が20代の女性部下に対し、「寒いから」と言って、半ば強引に、腕を組ませたりした点である。
- また、「自分の手が冷たいから」という理由で、女性部下に、自分の手を握らせたりしていた。
3.女性がこの件を大学に相談したことで、事態が発覚した。技師は「信頼関係ができていると思っていた」などと大学側に述べた。
【ワンポイント解説】
今回は、上司が女性部下と「信頼関係ができていた」と感じていたにも関わらず、女性部下は不快な感情を抱き、その結果、セクハラが認定されたケースである。
ハラスメントについては、このように行為者と被害者の言い分が平行線になることは珍しくない。
そして、今回のケースは、「信頼関係ができていると思っていた」という言い訳があることから、いわゆる無自覚型ハラスメントといえる。
すなわち、「悪意はなかった」、「親しみのつもりだった」といった行為者の自己認識に基づく行動であっても、受け手が不快に感じたり、精神的苦痛を受けたりすれば、ハラスメントとして成立することを意識しなければならない。
この「無自覚型ハラスメント」は、特に上下関係のある職場において起こりやすく、行為者が「関係性がある」「許される範囲だ」と誤認していることから生じやすい面がある。
上司の立場にある者は、相手がハラスメントに該当する言動を受けても、「嫌だ」と言えない立場にあることを常に考慮する必要があり、言動には注意する必要がある。
(社会保険労務士・中小企業診断士 坂本直紀)